作品情報(映画概要)
- 原題:The Other Lamb
- 邦題:異端者の家
- 公開:2024年(日本公開)
- 製作:A24
- 監督・脚本:スコット・ベック&ブライアン・ウッズ(『クワイエット・プレイス』脚本)
- 出演:ヒュー・グラント ほか
- 上映時間:約93分
森に囲まれた一軒家を訪れたシスターたち。出迎えたのは、笑顔のやさしい謎の男・リード。だがその家は、思考と信仰を試される出口のない迷路だった——。
静かな気づきの3行サマリ
- 男性支配に立ち向かう、フェミニズム的なテーマを含んだ映画
- 閉ざされた家の中での密室的な対話に、終始ざわざわとした不安がまとわりつく
- ヒュー・グラントの笑顔が逆に狂気をはらんでいて、終始心が休まらなかった
はじめに|苦手だったのに、目を逸らせなかった映画
正直に言うと、私はこの映画が少し苦手だった。
というより、「ずっと観ていて落ち着かない」そんな映画だった。 宗教、女性の支配構造、沈黙、そして閉ざされた家の中で繰り返される対話。 その世界に入り込むほどに、不安と違和感がどんどん広がっていった。
でも途中でやめられなかった──というか、映画館の中だから観る以外ない、という状況もあった笑。
ずっと何かを突きつけられているようで、目を逸らすことができなかった。 そして観終わったあとに残ったのは、「この不快さは、必要だったのかもしれない」という感覚だった。
見た目の美しさと、内側に潜む不穏さ
映像はとても静かで美しい森の風景、一見穏やかな家の中、そして自然光が差し込む無機質な空間。
でもその美しさのすべてに、どこか「異常さ」がまとわりついている。 自然の中にいるのに、呼吸が詰まるような感覚。
言葉にされない支配、沈黙による恐怖、そして信じるということの怖さ。 少女たちの瞳の奥にある、言いようのない緊張感がずっと続く。
ヒュー・グラントの笑顔が怖すぎた
この映画でいちばん印象的だったのは、ヒュー・グラントの笑顔。 優しげに見えるのに、どこか不自然で、支配者の仮面をかぶった「教祖」そのもの。
笑っているのに、全然安心できない。 むしろその笑顔が出てくるたびに、怖くて息を詰めてしまった。
支配する側は、やさしい顔をして近づいてくる。
そのことを、この映画は静かに突きつけてくる。
自分で選んでいるようで、選ばされている
あの家で問われる“選択”は、一見すると自由意志のように見える。 でもその実、用意された選択肢の中でしか動けない。
自分で考えているつもりでも、実は誘導されている。
そうやって信仰も、意志も、少しずつ奪われていくのだと思った。
だからこそ、「疑うこと」からすべては始まる。 解放は、抵抗というよりも、自分の思考にもう一度触れるところから始まる気がする。
主人公の少女が、ある“違和感”をきっかけに、信じてきた世界にヒビを入れていく。
信じることは時に美しいけれど、 その信じる先が「誰かの支配」だったとき、 その美しさはとても脆くて残酷なものになる。
解放は、大きな反抗ではなく、 ただ「これはおかしいかもしれない」と小さく疑うことから始まるのかもしれない。
おわりに|ブルーベリーパイがしばらく食べられない映画
観ていて終始ざわざわしていた。苦手だった。 だけど、観終わったあとにしばらく残っていた“沈黙の重さ”が、 きっとこの映画が描きたかった本質なのだと思う。
快適な映画じゃない。 それどころか、ブルーベリーパイを見るたびに、あの笑顔と家の中の空気がふっとよみがえるくらいには、記憶に残る作品だった。 でも、目を背けてはいけない何かが確かに描かれていたと思う。