収納には、その人の哲学がある

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収納ボックスの色ひとつに、何日も迷ったことはないだろうか。物が収まりさえすればいいはずなのに、なぜか手が止まってしまう。

最近の部屋づくりのなかで、うまく言葉にできなかったその感覚を、ここに残しておきたい。

目次

収納ボックスの色を、こんなに考えるとは思わなかった

丸テーブルの横に、ブルーのスチールシェルフを置いた。ダルトンのもので、組み立ては拍子抜けするほど簡単だった。線が細く、余計な装飾がない。少しくすんだ青が、テーブルに座ったときの視界の端で静かに光っている。美しい棚だと思う。

この棚に紅茶とコーヒーを置くことは、買う前から決まっていた。一番上には香水を置く。それも最初から決めていた。

ところが、下の段に入れる収納ボックスを選ぶ段になって、急に迷い始めた。色は何にするか。フタはあったほうがいいか。上の段の香水と並んだとき、どう見えるか。

隠すための箱なのに、箱の見た目が気になる。そのちぐはぐさが自分でも少しおかしくて、同時に、何をどこに置くかという小さな選択のなかに、自分なりの判断の癖がにじんでいる気がした。

その癖をたどってみると、まず棚の段ごとの役割が見えてくる。

収納は、物の優先順位を決めること

一番上には、香水と、見た目のきれいな入れものと、お香、そして抽象画を置いた。丸テーブルに座ると、ちょうどよく見える高さだ。

寝る前には、ここから香りのいいボディスプレーを取って、ひと吹きしてから眠る。いい匂いのなかで眠れるのが気に入っている。

中段には、紅茶とコーヒー、ポットとドリッパー。休日にゆっくりしたいときに淹れるものだから、毎日使うわけではない。それでも、使うものとして、手の届く中段にいる。

頻度だけで考えれば、もっと奥にしまってもよかった。けれど私にとってこの道具たちは、回数より、使うときの時間のほうに重みがある。置き場所は、値段や大きさより、暮らしのなかでの重さで決まっていくのだと思う。

もちろん、すべてにそんな意味があるわけではない。部屋の広さや、手の届く高さや、予算の都合で決まる場所もある。ただ、迷った場所ほど、何かを選んでいる。

見せたいものと、隠したいもの

下段には、化粧品や薬などの生活用品を、グレーの折りたたみ式のフタ付きボックスに入れた。ここは迷わず、隠す収納だった。

最近、見せる収納と隠す収納の使い分けを、少しずつ覚えているところだ。

そうして気づいたのは、好きなものに囲まれたいことと、すべてを見せたいことは、同じではないということだった。物が多いから隠すのではなく、上の段の香水をきれいに見せるために、下の段を隠しているところがある。

窓の横には、天井まである白いスチールの本棚が、部屋の真ん中にドーンと立っている。白にしてよかったと思う。壁の白と同化して、棚そのものの気配が消える。そのぶん、びっしり並んだ本の背表紙のカラフルさが、一枚の絵のように見える。

ブルーの棚は、棚そのものを見せている。白い本棚は、自分の姿を消して、中身を見せている。同じスチールの棚なのに、役割が正反対だ。

そう考えながら、もう一度ブルーの棚を眺めてみて、ふと気づいたことがある。

私は収納を考えているつもりで、実は時間の置き場所を考えていたのかもしれない。一番上は、眠る前の時間。中段は、休日の時間。フタの閉まった下段は、毎日必要だけれど、使わないあいだまで目に入れておかなくていい時間。物を片づけていたのではなく、どの時間に何を目に入れたいかを、段ごとに分けていたのだ。

細い線と色のいいブルーで、置いただけで部屋の景色の一部になった棚。組み立ても簡単だったので、ここに置いておく。

取り出しやすさには、未来の自分への配慮がある

時間の置き場所として棚を見ると、収納は、今日片づけて終わる作業ではなくなる。

寝る前の私が、迷わずボディスプレーに手を伸ばせること。休日の私が、ポットとドリッパーをすぐに取り出せること。収納の出来を決めるのは、片づけた直後の私ではなく、その棚を使い続ける先の私なのだと思う。

非常用品の収納は、普段とは違う物差しで決める

その「先の私」のなかには、できれば会いたくない日の私もいる。

非常食は、クローゼットの中にしまっている。消費期限はアプリで管理していて、見えない場所にあっても、期限だけは見えるようにしてある。

防災ラジオは、白い本棚に置いた。いざというときのためだけでなく、日常でも使おうと思ったからだ。しまい込んでしまうより、毎日の景色のなかにあるほうが、きっと手が覚えている。

非常用リュックは、まだ手元にない。どんなものにするか、どこに置くか、いま検討しているところだ。

普段の物なら、使う回数や見た目で場所を決められる。でも防災用品は、めったに使わないのに、必要なときには一瞬で取り出せなければ困る。使う回数が少ないことと、優先順位が低いことは、まったく別の話なのだと、ここで初めてはっきりわかった。

収納を見直すと、今の自分が並ぶ

今回の見直しで、手放すものが二十点ほど出た。

座椅子のように使っていたクッションが二つ。もう今の美学に合わなくなった折りたたみのテーブル。四つのカラーボックスに分かれていた本は、白い本棚ひとつに集まった。小さなラックがいくつかと、使わなくなったヨガマット。本も一箱分、買取に出している。

そして、ダンベル。理由は、部屋の色に合わないから。新しいものを買うかどうかはまだ決めていないが、どちらにしても今のものは手放すことにした。

使えるかどうかではなく、この部屋に置きたいかどうか。ダンベルについては、その基準で決めた。ヨーロッパのヴィンテージや、六十年代から七十年代のモダニズム、インダストリアルな空気に部屋を近づけたいと思っている今の私にとって、色は、機能と同じくらいの判断材料になっている。

手放すのは、成長したからというより、ただ暮らし方が変わったからなのだと思う。収納を見直すと、過去の私が選んだものと、今の私が置きたいものが、同じ床の上に並ぶ。

収納には、その人の哲学がある

香水は、美しいから見せる。生活用品は、毎日使うけれど隠す。コーヒーの道具は、たまにしか使わなくても手の届く場所に置く。非常食は、見えなくても期限だけは見えるようにする。ダンベルは、色が合わないから手放す。

並べてみると、私の収納には一つの基準しかないわけではなかった。美しさを優先する場所もあれば、使いやすさを優先する場所も、備えを優先する場所もある。その判断の寄せ集めが、たぶん私の収納の哲学なのだと思う。

部屋は、まだ完成していない。だからこれからも、何を残して、何をどこに置くのか、私は迷い続けるのだと思う。

静かな気づきの3行サマリ

置き場所は、物の値段や大きさではなく、暮らしのなかでの重さで決まっていた。
隠す収納は、見せたいものをきれいに見せるためにもある。
棚を整えていたつもりで、私はどの時間に何を見たいかを選んでいた。

寝る前の、ブルーの棚

丸テーブルに座って、ブルーの棚を眺める。

一番上には香水と抽象画。中段には、次の休日まで出番を待つポット。下段のグレーのボックスは、今日もフタを閉じている。

非常用リュックの居場所は、まだ決まっていない。手放すものたちも、まだ部屋のどこかで迎えを待っている。

立ち上がって、一番上の段からボディスプレーを取る。ひと吹きして、その香りのまま眠りにつく。

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